生前、故人が有していた権利能力は死亡によって失われ、故人に帰属していた一切の権利義務は、その相続人へと承継されます。(民896条

相続人が一人だけの単独相続であれば、その者がすべての権利義務を承継します。

しかし相続人が複数人の場合、例えば、配偶者と子、子だけの場合でも子が複数人いるなど共同で相続した場合、相続財産は共同相続人全員のもの、共有となります。(民898条

この共有関係を解消し、相続財産を各相続人に分配し、各相続人の単独所有に還元することが遺産分割です。

遺産分割をしないとどうなるの?

遺産分割自体、法的に義務付けられているわけではありませんし、期限が設けられているわけでもありません。

遺言者が遺言で一定期間の分割を禁じた場合を除き、共同相続人はいつでも、協議によって分割することが可能です。(民907条①

よって、共有財産として、共同相続人で所有し続けるということでも構いません。

しかし、共有物に変更を加えるとき、例えば、共有の不動産の売却をする際など、共有者全員の同意が必要になってきます。(民251条

共同相続人の人数が少なければ、まだ同意が得られやすいですが、共有のまま時が過ぎ、次の代の相続でさらに共有者が増えれば、話がまとまらないということもあり得ますし、共有者が大勢の場合には、なかなか不動産の買手もつかないということもあり得ます。

また、税金面で言えば、遺産分割をしなくても相続税の納期限は10か月後にやってきますし、各種特例が受けられないという事態もありえます。

よって、できるだけ、被相続人の死亡後、速やかに遺産分割を行った方が得策と言えます。

遺産分割の対象となる財産、ならない財産

相続開始と同時に、故人(被相続人)に帰属していた一切の権利義務、相続財産(プラス財産やマイナス財産)を承継しますが、遺産分割では、相続財産のすべてが対象となるわけではありません。

では、どういった相続財産が遺産分割の対象となるのでしょうか?

遺産分割の対象となる財産

遺産分割の対象となる財産は、相続開始時に現存し、かつ、遺産分割時現存する財産です。

そして、現金、預貯金、株式、不動産、車等の動産など、基本的には経済的な価値を持つ財産の全てが対象となります。

基本的に遺産分割の対象とならない財産

反対に、遺産分割の対象とならない財産としては、以下のようなものがあります。

可分債権

可分債権とは、その性質上、分けることのできる債権です。

例えば、被相続人が生前に有していた、売掛金、貸金請求権、損害賠償請求権などの金銭債権については、被相続人の死亡と同時に、法律上当然に各共同相続人が法定相続分に応じて権利を承継します。

従って、金銭債権などの過分債権は、各共同相続人に相続分に応じ帰属し、単独で権利を行使することができます。

よって、基本的には可分債権は遺産分割の対象にはなりません。

預貯金債権(例外)

金融機関に預けている預貯金も金銭債権であり、可分債権です。

よって、以前は各共同相続人が単独で預貯金を引き出すことができていました。

しかし、最大決平28.2.19の決定により、従来の判例を変更し、預貯金債権は遺産分割の対象に含まれるとの判断を示されました。

これにより、預貯金債権は共同相続人の共有となり、遺産分割の対象となったため、遺産分割までに払戻しを受けたい場合には、共同相続人全員の同意を得、同意を得られない場合は、家庭裁判所に審判を申し立てるなどの手続きが必要となりました。

しかし、当面の生活費や葬祭費など必要な金銭の払戻しを受けたくても、なかなか共同相続人全員の同意が得られないなど支障をきたすケースも出てきました。

そこで、平成30年(2018年)7月の民法改正により、遺産分割前における預貯金の払戻制度が新たに創設され、法律で定める割合の範囲内であれば、家庭裁判所の審判を得ることなく、相続人が単独で払戻しを受けられるようになりました。(民902条

可分債務

可分債務、分けることができる債務については、上記可分債権と同様、 被相続人の死亡と同時に、法律上当然に各共同相続人が法定相続分に応じて債務を承継します 。

つまり、被相続人の借金、営業上の買掛金、未納の税金、連帯債務等の金銭債務等は、遺産分割の対象には含まれません。

よって、債権者は各共同相続人に対して、法定相続分に応じて、返済の請求をすることができます。

しかし、法定相続分に応じ債務を負担するといっても、実際に相続した額よりも多く支払う者が出てきたり、反対に相続した額よりも少なく支払う者も出てくる可能性があります。

そこで、あらかじめ協議で、だれが、いくらの割合で債務を負担するかを決めておくということは、相続人間では有効です。

ただし、債権者がその協議内容に同意した場合を除き、債権者に対しては協議で決めた負担割合の効力はありません。

また、遺言による指定相続分についても同様で、債権者には指定相続分の効力は及びません。

家賃等賃料債務は不可分債務

例えば、被相続人が借りていた家屋の賃料債務については、判例は、目的物全体の使用収益権があるので、共同相続人の不可分債務だとしています。(大判大11.11.24)

よって、賃料債権者は、法定相続分とは関係なく、共同相続人の1人に対して、又は全員に対して、賃料全額の支払請求ができます。

祭祀財産

系譜や仏壇、お墓などの祭祀財産は、相続財産に含まれず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継します。(民897条

相続財産には含まれませんので、遺産分割の対象ともなりません。

香典

葬儀の参列者からの香典は、死者への弔意であるとともに、遺族への慰めや葬祭費用に充当してもらうことを目的とする遺族に対する贈与です。

よって、相続財産には含まれず、遺産分割の対象にはなりません。

一身専属権

一身専属権とは、その個人の人格や才能および信頼によって取得できた権利義務のことで、相続財産には含まれず、遺産分割の対象とはなりません。

一身専属権には、例えば、以下のようなものがあります。

  • 生活保護受給権
  • 公営住宅の使用権
  • 身元保証人としての債務
  • 社員としての地位等・・

生命保険金

生命保険金については、保険金の受取人が誰になっているかによって扱いが異なります。

受取人が故人本人になっている場合

例えば、貯蓄型の生命保険等、受取人が故人本人になっている場合は、相続財産となり、遺産分割の対象となります。

受取人が相続人になっている場合

死亡保険など、受取人が遺族、相続人の特定の者になっている場合には、その特定の相続人固有の財産となり、基本的に相続財産には該当せず、遺産分割の対象とはなりません。

また、受取人が単に「相続人」となっている場合も、相続人固有の財産となり、遺産分割の対象とはなりません。

ただし、相続人が受取人となっている場合でも、その額や事情によっては「特別受益」として扱うこともあります。

死亡退職金・遺族年金

死亡退職金は、故人が公務員やサラリーマンだった場合に、死亡時に勤務先から特定の受給権者に支払われる退職金です。

遺族年金は、死亡時に遺族に支払われる年金です。

いずれも受給者個人の固有の財産となり、基本的には遺産相続の対象とはなりません。

ただし、その受給額によっては、上の死亡保険金と同様に特別受益として扱われる場合があります。

以上、遺産分割とは何か、また、遺産分割の対象となる財産、ならない財産について解説してきました。

もちろん、これ以外にも分割の対象となったり、ならなかったりする財産もあるかと思います。

遺産分割で迷われた場合には、個別に当事務所にお問い合わせください。

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