遺産分割協議を行う上で、相続人の中に行方がわからない行方不明者がいる場合、その行方不明の相続人抜きで協議を行うことができるのでしょうか?

当サイトでもお伝えしてきましたように、遺産分割協議は法定相続人全員が参加し、全員が内容に同意したものでなければ無効となってしまいます。

法定相続人とは、戸籍に記載されている続柄の中で、法律で定められている範囲の人物です。

つまり、戸籍に記載されていて、かつ、まだ生存している相続人がいる限り、行方不明になっていてもその相続人を欠いて、遺産分割協議を行うことはできません。

しかし、遺産分割協議を行わず放置すれば、そのうちに相続税の納付期限が到来したり、財産を処分できなかったり等、何かと不都合が生じてきます。

では、このように相続人の中に行方不明者がいる場合、どうすればいいのでしょうか。

まずは戸籍の附票を取得してみる

法定相続人の範囲を確定させるために、すでに被相続人および相続人の戸籍等は取得していても、戸籍には本籍地のみ記載されており、住所(住民登録地)は記載されていません。

本籍地はその戸籍が置かれている場所であり、住民登録地を本籍地にしている場合もありますが、必ずしも本籍地=住民登録地とは限りません。

この本籍地と住民登録地を繋げるものとして、戸籍の附票があります。

戸籍の附票には、その戸籍ができた時から除籍になるまでの住民票の異動履歴が反映されています。

よって、戸籍とは別に、戸籍の附票を取得することにより、その戸籍での最新の住民登録地を確認することができます。

なお、その戸籍の本籍地から別の本籍地へ転籍した場合や婚姻等によって除籍になっている場合には、さらに新しい本籍地で附票を取得し辿っていく必要があります。

戸籍の附票の請求人

戸籍の附票は原則的に本人しか請求できませんが、遺産相続等、請求人が利害関係人であり、権利行使や義務履行のために必要な場合には本人以外でも請求することができます。

ただし、その際には、利害関係人であることを証する資料(行方不明者と利害関係にあることを証明する戸籍等)を提出する必要があります。

必ずしも住民登録地に居住しているとは限らない

上述のように戸籍の附票を取得することにより、行方がわからないと言っても単にこちらが現住所を把握できていないだけといった人物の場合には判明することもあります。

ただし、戸籍の附票でその行方不明だった相続人の住所がわかったとしても、必ずしもその住所地に実際に居住しているとは限りません。

転居の際、転居先の市役所等に届け出るのは法律上の義務ですし、届け出なかった場合には過料といった罰則もありますが、家出等で移転先を知られたくない、あるいは何らかの事情で届出をしていないケースもあります。

そうした場合には、以下のような制度を検討してみましょう。

相続人が行方不明の場合の法制度

相続人の中に行方不明者がいて、それでも遺産分割協議を進めなければならないとき、おもに下記2つの法制度があります。

  • 不在者財産管理人制度
  • 失踪宣告制度

それぞれの制度をもう少し詳しく見ていきましょう。

不在者財産管理人制度

不在者財産管理人制度とは、行方不明になっている相続人が生存している、あるいは戻ってくる可能性が高い場合に、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申立を行い、行方不明の相続人の財産を本人に代わり、不在者財産管理人が管理、保存、別途申立により処分できる制度です。(民25条

申立人

  • 利害関係人
    ・・・行方不明者の配偶者、相続人、債権者など
  • 検察官

不在者財産管理人にはどのような人が選任されるのか?

不在者財産管理人に選任されるための資格といったものは特に無く、申立の際、利害関係のない親族、知人等を希望することも可能です。

ただし、行方不明となった不在者の財産を管理するという職務の性質上、職務を行えるかどうかの適格性が判断されます。

その結果、希望する親族等が適格ではないと判断されれば、弁護士等の専門職が選任されることもあります。

不在者財産管理人の権限

家庭裁判所により選任された不在者管理人は、以下の権限を有します。(民28条民103条

  • 保存行為(財産の現状を維持する行為)
  • 利用行為(財産の性質を変えない範囲で収益を得る行為)
  • 改良行為(財産の性質を変えない範囲で財産の価値を増加させる行為)

これにより、管理人は原則、管理している財産の遺産分割、売却等の処分行為を行うことはできません。

権限外行為許可の申立

上記、法律で定められた権限外の行為、つまり、相続財産の放棄、遺産分割、売却等を行う場合は、家庭裁判所に上記不在者財産管理人の選任の申立と併せて権限外行為の許可の申立てを行い、許可を得る必要があります。(民法28条

不在者財産管理人の選任の申立を行う際の留意点

民法では、「不在者」とは、「住所又は居所を去ったもの」と規定されています。

実際には、従来の住所又は居所から何らかの原因で離脱し、容易に復帰できないことまで必要とされます。

従って、単に関係が疎遠になっている程度では、もちろん申立は認められませんし、行方が分からなくなってから、まだ、それほど日数が経過していないケースでは認められない場合もありますので、留意が必要です。

失踪宣告制度

上記、不在者財産管理人制度が、行方不明になった不在者の生死は不明だが、生存している可能性が高い場合に用いられるのに対し、失踪宣告制度とは、一定期間、生死不明の状態が継続して死亡の可能性が高い場合に、家庭裁判所の審判によって、法律上死亡したとみなす制度です。

失踪宣告が認められると、その行方不明者は死亡したものとみなされ、戸籍上も死亡として記載され除籍されます。

よって、行方不明だった相続人の死亡が確定し、その相続人は死亡したものとして、遺産分割協議を進めることが可能となります。

以上、相続人の中に行方不明の人物がいる場合に、遺産分割協議を進めるための対処法についてお伝えしてきました。

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